夜行バス揺られてきみに会いにゆく窓の外には知らない夜景
#短歌 #tanka
夫と遠距離恋愛をしていた時期がある。
夫もわたしも関東の生まれで、同じ高校に通っていた。
病気で高校を辞めたり入院したり大学留年したり…というまわりくねった遠回り人生のわたしに対し、夫はストレートで大学院まで行ったので、夫が就職した頃には、わたしはまだ大学生だった。
夫の就職先は関西だった。
東京駅のバス停から夜行バスに乗り込む。
目的地までは11時間。
23時発のバスに乗っても、向こうに着くのは朝の10時だ。
バスに乗り込むと時間も時間なのですぐに車内の照明は消される。
車窓につけられたカーテンの端をめくって、外の景色を眺めていた。
夫が関西に就職を決めたのはわたしが原因だった。
「地獄のような」と形容しても差し支えない実家から逃げたいと常々言っていたわたしを遠くに連れ出すために、夫は関西に就職を決めた。
京都が好きで、家出のようにしょっちゅう一人旅をしていたわたしが、関西ならのびのびできると思ったらしい。
大学生活最後の1年を我慢したら、わたしは実家を出て夫と暮らすことを決めていた。
窓の外の景色はだんだんと知らないものへ変わっていく。
そんな知らない町にも、それぞれ人が住んでいてそれぞれの生活がある、と思うと、意外とどこに行っても暮らしていけるような気がした。
「待ってます」
というメッセージにスタンプで返事をして、車窓を流れる夜景を眠るまで眺めていた。