河原町星屑通東潜ル

短歌とエッセイ。Twitter https://mobile.twitter.com/moeori

となりのコンビニ

わたしの実家の数件隣にはコンビニがある。

徒歩1分以内と言えるだろう。

昔は駄菓子屋だったその土地にコンビニができたのはわたしが幼稚園の頃だったと思う。

もう駄菓子屋の様子が思い出せなくなるほどの長い間、そのコンビニはその場所で営業している。

 

実家に用事があるとそのコンビニにも顔を出す。

オーナー店長のおじさんは町内会でうちの隣組(回覧板を回し合うグループ)なので、顔見知りだ。

 

店長さんはわたしを見かけると

「よっ、今どこ住んでるの?」

と気さくに声をかけて来てくれる。

転勤族みたいな暮らしをしているわたしはその質問にざっくりと答える。

「今は東海ですねー。日本海側はやっぱり明るいです」

「お、東海ならおじさんの昔の彼女が名古屋の人でさ〜」

質問はするけれど店長さんはわたしの話に深く立ち入らない。

わたしにはそれがありがたい。

 

実家の父はろくでもない死に方をした。

そうなるまでのゴタゴタは周囲にも伝わっているはずだ。

それ以前にも、夜中にコンビニへパジャマのまま逃げ込んで少年ジャンプを読んでいたわたしを店長さんは知っている。

 

お互い東京に実家があるのにあえて転勤族になった夫を連れて行けば

「良さそうな旦那さん捕まえたね〜!」

と背を叩くけれど、

実家を出て結婚してもう何年も経つのに、子供を連れていないことに対しては店長さんは何も言わない。

 

ただそのコンビニへ行くと、

「おかえり!元気そうだね」

そう言ってモップ片手に笑顔を見せる。

 

わたしは実家にも

「お邪魔します」

と言って入るのに、そのコンビニの店長さんには

「ただいまです」

そう言って、笑ってしまうのだ。