雨よけをさがして走る猫の背に降るしずくすらあたたかな町
#短歌 #tanka
この町は冬場は雨が少ない。太平洋側の気候の特徴として冬場は乾燥するというのは教科書の通りなのだけれど、それを意識したのはこの町に来てからだと思う。
そんな町でも時々は雨が降る。といっても傘をさせば何も問題ない程度の雨だ。わたしは傘をひろげて町を歩いていた。
今いる町は坂の多い町で、自然と息があがってしまうような坂道も多い。その雨の日に歩いていたのもそんな坂道だった。
急すぎる坂だからか、その坂には空き地がいくつかあって、ソーラーパネルが並んでいた。
ソーラーパネルは、前の町では見かけなかったし、生まれ故郷でも見たことはほぼなかった。それがこの町では一般家庭の屋根や空き地、いたるところで見かける。この町は日照時間が長いからだろう。
わたしがまだ見慣れないそれを見ていると、目の前を白黒の猫が横切った。まだ若そうなその猫はソーラーパネルの下にもぐりこむと毛づくろいをはじめた。
たしかに猫が雨宿りするのにはちょうどいい場所のようだ。雨はしっかり避けられるし、人間は入ってこない。
わたしが横を通っても、猫は逃げるでもなく前脚をなめていた。
前に住んでいた町は日本海側の雪国だった。今頃はもう雪が降っているはずだ。
冬場の気温はマイナスになるし、地元の人は1メートルの積雪で「まだ少ないね」と言うような町。
その町ではほとんど野良猫を見かけなかった。寒いから、野良猫が生きるには難しいのかもしれない。
あの町の冬は、静かだった。
雪がすべての音を吸い込みながら、町を白く埋めていく。猫どころか、冬場に歩いている人はほとんど見かけない。車が通る大きな道路を外れれば、動くものは降り積もる雪片だけになる町。
わたしはその町を歩くのが好きだった。車の運転をしたくない事情があり、雪だろうと雨だろうと歩くしかなかったというのもあるけれど、わたしはスノーブーツを履いてその雪国を歩いていた。
歩道と車道の間にはわたしの身長より高い雪の壁ができている。除雪車が車道からどかした雪だ。そのうちその壁を削って雪を回収していく作業車が来て壁の厚みが減ることはあれど、春まで壁がなくなることはない。なんなら大型店舗の駐車場などの雪は桜が咲いても残っていた。
今いる町は、3月半ばには早咲きの桜が咲く。濃い色をした桜が川を縁取るようにずっと並んでいるその川沿いの道でわたしは自転車を走らせる。前の町で買った自転車は、雪道の悪路っぷりにほとんど走らせないまま、その雪で錆びて処分してしまった。坂の多いこの町で走らせているのは新しく買った電動自転車だ。
自転車で走っていても、歩いていても、この町で見かける猫は逃げない。なんとなくのんびりしている。
猫のいる町。
雪の降る町。
ありとあらゆるものが違う町と町。
実家を出てから、ずっと旅をしているような気分でいる。
わたしが最後に落ち着くのはどんな町なのだろう。