河原町星屑通東潜ル

短歌とエッセイ。Twitter https://mobile.twitter.com/moeori

祖母たち。

夫の祖母が亡くなった。

おばあさんはわたしたちが入籍する少し前に脳梗塞を起こしてしまい具合が悪かったので、結婚の報告にも行けないままだった。

おばあさんとは高校生の頃に何度か会ったことがある。夫とは高校からの付き合いなので、学校帰りに夫の実家に行くとおばあさんが

「よく来たねえ。お菓子食べる?」

「今日はアイスがあるよ」

といろいろ出してくれた。

自分の実家の祖母が少し苦手だったわたしは、夫の家のおばあさんが好きだった。

 

自分の実家の祖母は「死にたい」が口癖だった。今思えばあの家の環境なら仕方がないのだけれど、子供だったわたしはその口癖を聞くのが嫌でたまらなかった。

自分の祖母ーーおばあちゃんはある日転んで骨折したのをきっかけに施設へ行ってしまった。自分で歩けなくなったおばあちゃんはどんどん認知症が進んで、たまにしか見舞いに行かないわたしのことは誰だかわからないみたいだった。

でも、おばあちゃんは幸せな呆け方をした。

施設に入ってからのおばあちゃんは「ありがとうよ」が口癖のかわいいおばあちゃんになった。誰だかわからないわたしにも「よく来たねえ」「かわいい手して」と言いながらわたしの手をさするのだ。

家にいた頃よりにこにこして車椅子に乗るおばあちゃんを見てわたしは本当に良かったと思った。

 

夫のおばあさんはお義母さんいわく、脳梗塞で性格が変わってしまったらしい。

お互いに可哀想なことになるだろうという配慮のもと、わたしたちは入院後のおばあさんを知らないままにおばあさんは亡くなった。

 

ご遺体の髪の毛は真っ白になっていて、昔お会いしたときのおばあさんとは違っていた。大叔母さんが「染めるのもできなくなってしまったのね」とこぼした。髪の色の違いに会わないまま過ごしてしまった時間の長さを感じた。

 

苦手だったはずのおばあちゃんはかわいいおばあちゃんになった。

好きだったおばあさんは会えないくらいに変わってしまった。

自分は歳を取ったときどうなるのだろう。

 

わたしは今、おばあさんがアイスをくれた夫の実家にて、おばあさんもいつか見たはずの、夫の家からの朝焼けを眺めている。