河原町星屑通東潜ル

短歌とエッセイ。Twitter https://mobile.twitter.com/moeori

窓の向こう。

 

病院帰りの電車内。

前の座席に座る人たちも、左右に座る人もみんなスマホをいじっている。

 

わたしは電車やバスから外の景色を眺めるのが好きだ。

それはわたしがまだこの街に来たばかりの他所者だからかもしれない。

 

ここ5年ほど、実家を離れてから、ずっと他所者気分で暮らしている。

夫が転勤の多い職場だったこともあり、どの街に行っても、いつかは離れる場所と思っていた。

目の前に広がる風景は、見慣れない景色で、いつかは見られなくなる景色。

そう思うと窓の向こうの街並みが何故か見ておくべきもののように感じる。

 

今日もそんな気分でなんとなく電車の窓の外を眺めていた。

大きな駅の近くのビル街を抜けると、隠れていた夕日が差し込んでくる。

眩しさに一瞬細めた目が、見慣れないものを見つけてピントを合わせる。

スマホを触る人たちの後ろには、夕日を受けて虹色に光る雲が浮かんでいた。

彩雲だ。

 

他の人はこれに気づいているだろうかと、車内を見渡しても、誰も彼も手元を覗き込んでいて、窓の向こうの景色など見ていない。

手元の小さな世界と、その後ろにある大きな世界。

なんだかもったいないような気分と、人間の視野の狭さを感じつつ、わたしは彩雲が車窓から見えなくなるまで外を眺めていた。