モスバーガーはマックより高い。
それは今でもそうだし、高校時代にはなおさら高価なものに思えた。
それでも背伸びをしてモスバーガーに行った秋の日があった。
高校1年の秋、先輩に連れられて、高校の最寄り駅の向こう側にあるモスバーガーへ行った。
それまでモスバーガーに入ったことがなかったわたしにとって、ハンバーガーといえばマクドナルド。
しかし目の前に運ばれてきたハンバーガーは見知ったものとは明らかに厚みが違う。
初デートでハンバーガーは歯型がつくから良くない的な話を聞いたばかりだったこともあり、先輩をうかがいながら、わたしはおそるおそるハンバーガーにかじりついた。
……おいしい!
初めて食べるモスに夢中でかぶりつくわたしへ、先輩は笑って言った。
「美味そうに食べるな、おまえは」
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「美味しそうに食べるなって」
お互いを好きになったきっかけは?という話で夫氏はそう答えていた。
先に答えたわたしが、
「手作りおかしで餌付けされてたので……」
と言ったせいもあるのだろう。
そういえば亡くなった祖母も
「おまえは美味しそうに食べるねえ」
とよく言っていた。
両親は嫌いだが、祖母のことは好きで、小さい頃はよく一緒にこたつでみかんを食べていた。
わたしが築くみかんの皮の山の向こうには、いつもしわしわの笑顔の祖母がいた。
わたしの好きな人たちは、わたしが食べるところをにこにこして見てくれていた人なんだなと気がつく。
基本的に食事中に喋ることが苦手というか、意識がぜんぶ目の前の食べ物に向いてしまうので、相手はただただ食べているわたしを見ているだけになると思うのだけれど…。
それでも良いと、そう思えるくらい思われていたのかもしれない。
明日は早起きをして、少しだけ丁寧な朝ごはんを夫と食べようと思う。